石山緑地

北海道遺産の札幌軟石を辿る南区トリップで、その魅力にふれる

※2020年3月27日更新
札幌市南区石山は、かつて建材に最適とされた札幌軟石の産出地。その札幌軟石の巨大な石切り場跡を公園へと再生させたのが「石山緑地」です。展望テラスやテニスコートなどが設けられた市民の憩いの場としての“北ブロック”もさることながら、ここで特に注目したいのは、切り立った岩肌の造形美が印象的な“南ブロック”。石のみで造られたスポットやユニークなアートが、無二の公園を演出しているのです。ここでは、石山緑地の魅力とともに、それを支える札幌軟石の関わりと今を紹介します。

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アートが交差する石山緑地の魅力

石山緑地があるのは、札幌中心部から車やバスで40分ほどの南区石山エリア。支笏湖に向かう国道453号沿いに位置し、11.8ha(ヘクタール)の広大な園内は豊かな緑に恵まれています。最大の特徴とも言えるのが、軟石を使った園内のアーティスティックなデザイン。

元々この地は札幌軟石の産出地であり、石切り場跡地。荒れたまま残っていた跡地を蘇らせようと道内在住の彫刻家から成る造形集団「CINQ(サンク)」が立ち上がり、構想から設計までに関係。着工に至るまで、実に4年の歳月をかけて1996年に開園しました。敷地内には、石切り場の切羽がそのまま残っており、その上には浸食が進む火山灰層も見てとれます。

スプリンクルキューブ(石の造形)や石のオブジェが散りばめられた『午後の丘』、コロシアムをイメージさせるネガティブマウンド(石のイベント広場)、スパイラルスプリング(水と石の遊び場)といった、札幌軟石を使用した大きな作品・広場があり、その様子はまるで異国のよう。

鮮やかな赤色が映える「赤い空の箱」は、子どもたちに人気のジャングルジム。上まで登ると、削られた岩肌を間近に見ることができるほか、見下ろした先に採掘で栄えた石山の街並みが広がっています。

このほか、園内のベンチや照明、水飲み場、フェンスまで作家によるデザインが施されており、公園全体がひとつのアートスペースに。これらがある“南ブロック”の美しい情景から、石山緑地は「ふるさと文化百選」にも選出。地元民の憩いの場でありながら、美しい景色と札幌の大切な歴史を実際に肌で感じられる貴重なスポットはなかなか貴重。ぜひ多くの人に訪れてほしい場所です。

札幌軟石を辿って、石山エリアを楽しむ

石山エリアをせっかく訪れたなら、札幌軟石を巡るショートトリップもまた特別な体験に。札幌軟石は約4万年前、支笏火山の大規模な噴火による火砕流が冷えて固まった岩石。ちょうどこの石山エリアまで火砕流が流れついていたと言われ、明治初期には盛んに採掘が行われていたと言います。ここ、「藻南公園(もなみこうえん)」もかつての採掘場跡地。園内の『札幌軟石ひろば』の岩壁には、札幌市で軟石が切り出された初期の切羽跡が残っています。

ひろばには、石切りの工程が分かる説明版が設置されており、その説明の状態に合わせた石も一緒に展示されているのが面白いポイント。切り出した最初の状態の石、それをいくつかに小割りした石、さらにそれを同じ大きさに整えた石…。順を追って石の状態を確認してみると、理解を深められることでしょう。

石山緑地から徒歩約10分、藻南公園からは車で約5分の場所にある「石山神社」。明治43年にはこの土地にあったとされる、こちらの神社にも札幌軟石があります。それは神社の鳥居。鎮座130年を記念して、2015年に神殿が建て替えられましたが、鳥居は古き良き時代のまま。長い時を経た風合いが素敵です。

また、境内の灯篭や狛犬も札幌軟石を使ったものだそう。「石山神社」は南区で唯一、神職が駐在する神社。かわいいお守りなども販売しているので、石山散策の際はお参り方々訪れてみてはいかがでしょう。

「石山神社」から徒歩約5分の場所にある「ぽすとかん」は、札幌軟石の風合いや趣を存分に感じられるスポット。かつて『石山郵便局』として活躍したこの建物を、保存・地域の拠点として活用したいという有志の方々により、2018年にクラウドファンディングで資金を調達。改装工事を施したのち、2019年4月に物販やカフェを中心としたスペースとしてオープンしました。

館内2階のカフェギャラリーには、札幌軟石にまつわる明治から昭和にかけてのパネル写真がいくつか飾られています(個展開催時などは、ない場合あり)。

こちらの建物は明治35年に『穴の沢郵便受取所』として開設したのち、明治41年に『石山郵便局』に改名。昭和15年に軟石を使った今の建物への改築され、昭和48年までその役目を努めました。右の写真は、昔の採掘の様子。かつては盛んに採掘が行われていたようですが、現在は同じく石山エリアにある「辻石材工業」という会社が一社のみ、採掘場を持ち、出荷を続けているのだそう。札幌軟石は次の世代に引き継ぎたい北海道の宝物として、2018年11月に“北海道遺産”に認定されています。

外観は当時のまま。柔らかい材質の軟石ですが、この建物の基礎には札幌軟石が使われているのだそう(近年の耐震基準に合わせて、木の柱や木の筋交いなどにより現在は耐震補強済み)。内装は塗装会社が施工しましたが、デザインやイメージは有志メンバーの考案によるもの。古い建物のイメージとマッチするよう内装色は濃いブラウンに、また2階へ向かう階段の踊り場の壁には、軟石の端材をいくつも組み合わせたウォールパネルが飾られています。その数、ざっと500枚以上! よ~く見てみると、貼る作業に協力した方の名前もスタンプされていました。

「ぽすとかん」を運営する『ぽすとかん再生プロジェクト』では、石山や南区に住む方々の交流の場や地域経済の発展に繋がればとの思いから、写真展や雑貨展・音楽演奏会・クッキー作りのワークショップ・店先での野菜の直売会など幅広い取り組みを実施。また、南区に住む人が増えたらと、「南区に住もう!」という相談会なども実施しています。いつ訪れても、心がほっこりするような発見があることでしょう。

かわいい雑貨を発見!

「ぽすとかん」内に入る雑貨店「軟石や」は、『ぽすとかん再生プロジェクト』のメンバーであり、札幌軟石に精通する小原恵さんが手掛けるお店。店内には、軟石を活用したかわいい雑貨がたくさん並んでいます。

子どもの頃から不思議と札幌軟石の魅力に惹かれていたという小原さん。好きが高じて、前述の石材会社にも勤めていたのだそう。聞くと、軟石はその名の通り、柔らかく加工がしやすいのが特徴。採掘や加工時に出る端材を見て、「何かに使えないかな?」とマグネットを作ってみたことに始まり、現在はお店を経営する傍ら、札幌軟石の普及活動にも勤しんでいます。

お店を代表する人気商品が、こちらのアロマストーン「かおるいえ」シリーズ。液体を吸収しやすく、揮発しやすい札幌軟石の特性を生かしたアロマストーンです。写真は屋根に札幌の景観色を施したタイプ。手持ちのアロマオイルをほんの2・3滴たらすだけで、数日間ふんわりと香るのだそう。

このほか、ぶら下げて使えるアロマストーンや軟石を土台にしたサイコロカレンダー、軟石マグネットなどもありました。また、隣の店舗「ニシクルカフェ」で作っているオリジナルクッキー「軟石クッキー」も販売。硬めのハードクッキーとなっていて、密かな人気なのだとか。小原さんが店舗に居る際は、軟石の話を聞くこともできるので、ぜひ質問してみると良いでしょう。

このトリップの最後は熱の湯が湧く、南区定山渓へ

実は札幌軟石と定山渓にも深い関りがありました。札幌軟石が採掘されるようになった明治42年、その輸送を目的として、札幌石材馬車鉄道(株)が札幌駅前から石山に至る馬車鉄道を敷設。さらに大正初期に定山渓鐡道(株)が創立され、札幌の発展と共に木材や鉱石などの輸送と定山渓温泉への行楽客の輸送を目的として、旧国鉄白石駅から定山渓まで鉄道を走らせていたといわけです(昭和44年に運行は終了)。ちなみに、定山渓鉄道の石切山駅舎は「ぽすとかん」の目の前にあり、こちらは旧定鉄の駅としては現存する最後の建物となっています。

定山渓ならびに定山渓温泉には、札幌軟石を活用した建物などがたくさんあります。定山渓温泉東3丁目付近にある、じょうてつバスの待合所は軟石で作られたもの。その昔の定鉄時代に使われていた建物が解体された際に出た軟石を使って作られたものと言われています。待合所の壁には、旧定山渓鉄道の線路がディスプレーされていますよ。また、定山渓温泉に新築された「まちづくりセンター」の外壁や内壁にも軟石が多様されています。

札幌軟石は耐震の問題から、現在は構造物として使用されることはなく、壁の装飾として札幌や北海道の公共建造物に多く利用されています。次に札幌や定山渓を訪れた際には、そういった点にも注目して楽しんでみてはいかがでしょう。

石山緑地

住所
札幌市南区石山78-24外
電話
011-578-3361(藻南公園管理事務所)
公式サイト
https://www.mit-ueki.com/
備考
※営業時間・定休日などの詳細はHPを御覧ください。